「蟹工船」函館でも人気

update 2008/7/11 12:28

 現代のワーキング・プアや格差社会など問題に通じるとして、若者を中心に全国的に注目を集めている作家小林多喜二(1903―33年)の代表作「蟹工船(かにこうせん)・党生活者」(新潮文庫)が、函館市内の書店でも好調な売れ行きを見せている。6月ごろから多くの店で例年の数倍の冊数が売れ、漫画版を扱う店も増えてきた。18日には七飯町内で映画「蟹工船」(1953年、山村聡監督)も自主上映される。

 「蟹工船」人気は、2月に多喜二没後75年を記念した読書エッセーコンテストが、多喜二の古里・小樽市で開かれたり、新聞などで特集記事が組まれたのがきっかけ。新潮社によると、例年5000冊程度の売れ行きだったが、ことしは既に約40万部増刷したという。

 公立はこだて未来大複雑系科学科の准教授で、経済学を研究する川越敏司さん(37)は「格差社会にいる人にとって、労働条件の悪さなどリアリティーを追求した部分は自己投影しやすく、訴えかけられる面が多い一方、労働者が主義主張を掲げて団結し、社会変革への夢を目指す部分は新鮮に映ったのではないか」とした上で、「現代の暗い社会の中で、一種の希望のように受け止められたのかもしれない」と分析する。

 棒二森屋アネックス館5階の「くまざわ書店函館店」(市内若松町)では、6月だけで文庫本が約40冊売れた。例年の売れ行きは年間2、3冊だったが、今は売れ筋コーナーに漫画版と一緒に並べている。四竃英俊店長(34)は「ドラマ化されてもいないのに、古い本がこれだけ売れるのは珍しい」と話す。

 一方、「三省堂函館川原店」(川原町)でも6月から文庫本が売れ出し、問い合わせが多いため漫画版も取り扱うことにした。従業員の岸田耕二さん(38)は「今まで読んだことのない年配者の方や20―30代の人も多く買う」と説明する。

 7、8年前に読んだという函館市の大学院生北村武文さん(29)は「フィクションとはいえ、自分の住む函館でこんな悲惨な状況があったのかと驚いた。この作品が共感を持って読まれるなんて悲しい時代だと思う」と話す。

 こうした状況を受け、「ピースシアターinななえ」(板谷順治代表)では18日午後6時半から、国道5号線沿いの七飯町大川コミュニティセンター(大川48)で映画「蟹工船」を無料上映する。函館でもロケした作品で、板谷代表は「なかなか見る機会のない映画からも、現代の社会問題を考えたい」と話している。上映の問い合わせは板谷さんрO138・65・0985。

 蟹工船

 1929年に発表されたプロレタリア文学の代表作。函館を出港する漁夫の「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」という方言で始まり、カムチャッカ沖で操業する蟹工船で経営者に酷使され、非人間的な労働を強いられる貧しい労働者たちの生活と闘争を描いている。映画版は独立ぷろ制作。森雅之ら出演。

提供 - 函館新聞社



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